医薬品包装は単に医薬品を包む入れ物としての役割だけでなく、安全性や有効性、安定性に大きく関わる役割を持ちます。
具体的には保護機能、情報提供機能、改ざん防止、誤使用・誤認識防止などの機能があり、これらの機能を満たしている必要があります。
この記事では、医薬品包装の役割について詳しく解説します。
医薬品包装の用途や種類、技術革新の情報などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
医薬品包装とは
医薬品は、病気を治療・予防するものであり、製品の品質が担保され、適切なタイミングに適切な量を投与しないと、命にかかわることがあるため、その包装にも様々なことが求められます。
ここでは医薬品包装に関する基本要件や重要性について確認しましょう。
医薬品包装に関する基本要件
医薬品包装は医薬品の品質を確保し、適正な使用および投与時の安全性確保に適したものでなくてはいけません。
医薬品包装の設計段階における適格性の要素には保護、適合性、安全性、機能の4つが含まれます。
保護 | 医薬品の損失、風解、潮解、蒸発などを防止し、必要に応じて防湿や遮光、ガスバリア性などを付加して医薬品の品質を確保する |
適合性 | 製剤と直接接触する一次包装は、製剤の有効期間にわたって医薬品の品質低下をさせてはならないので、医薬品と包材の適合性についての評価を行い、適切な包材を選択する必要がある |
安全性 | 包装の原材料や構成成分に毒性等が含まれないか、品質評価を実施する必要がある 包装に用いられる原材料からの化学物質の溶出物または移行物が医薬品の安全性を損なってはいけない |
機能 | 識別性、使用性、廃棄に配慮した包装設計を行う必要がある |
上記の要素をもとに設計段階で選択された医薬品包装は、基本的要件を満たしているかどうかを確かめるために適格性の評価を行う必要があります。適格性の評価は医薬品の形状や性質、採用する包装によって評価基準が異なります。
医薬品包装の重要性
医薬品包装は医薬品の安全性を高めるとともに、包装表示によって消費者に提供する情報量を飛躍的に増やす役割もあります。
さらに安全・安心に関する機能付加によって、誤った使用を避けるためにも医薬品包装は欠かせません。
医薬品包装の安全・安心を確保するために求められる機能として、「~しやすい」機能と「~しにくい」機能が挙げられます。
~しやすい | ~しにくい |
---|---|
・開封、取り出し ・識別 ・製剤認識、服薬 ・医薬品情報の判読 ・分別、廃棄 | ・誤飲、いたずら ・誤認・誤使用 ・怪我 ・錠剤の変質、破損などの品質低下 ・容器破損 ・異物付着 |
上記を満たした医薬品に適した包装を作ることが、医薬品の安全・安心の確保や使用性の向上に大きくかかわってくるのです。
医薬品包装の役割
医薬品包装には主に以下の4つの役割があります。
- 保護機能
- 情報提供機能
- 改ざん防止
- 使いやすさ
ここでは上記4つの役割についてそれぞれ解説します。
保護機能
医薬品包装で最も大切な役割といってもよいのが、保護機能です。
薬品を湿気や光、酸素、微生物などの外部要因から保護できなければ、品質が損なわれてしまう恐れがあります。
また薬品の有効成分によっては特別な保護機能が必要になるため、その薬品に合った医薬品包装を選ばなくてはいけません。
たとえば有効成分が光の影響を受けやすい薬品は、遮光包装の検討が必要となる場合があります。
情報提供機能
医薬品の直接の容器などの場合、次のようになります。
- 製造販売業者
- 名称
- 製造番号又は製造記号
- 重量、容量又は個数等の内容量
- 「日本薬局方」で定められた事項
- 貯法
- 有効成分の名称
- 注意事項
- 使用の期限
- 毒劇物の場合、それぞれ「毒」、「劇」の表示
- OTCの場合、第1類医薬品、第2類医薬品、第3類医薬品の文字 など
これらは特に複数の薬品を服用する場合などに、患者の混乱を避けるためにも必要不可欠となります。
また上記の情報は患者が正しく薬品を使用するためだけでなく、医療従事者が適切に薬品を保管・使用するために欠かせないものです。
改ざん防止
医薬品はその性質上、生命に関わるものです。
万が一、悪意を持って内容物に手を加えられたら、大きな問題となりかねません。
そのため、医薬品の包装には「封」をし、さらに開けたことがわかるような改ざん防止機能が必要です。
一度開封すると、元に戻すことができないように、特殊なテープを貼ったり、外装を工夫し、一目で開封されたことがわかるようになっています。
使いやすさ
医薬品包装はどんな人でも取り扱うことができるよう、使いやすさも重視する必要があります。
使いやすい医薬品包装の基準としては、開封が容易かつ適切な量を取り出しやすいデザインという点が挙げられます。
可能な限り高齢者や身体に制約のある人々にも配慮した上で、使いやすさも重視した医薬品包装を設計することが大切です。
ブリスター包装(PTP包装)についても、設計する上でこれらのことに配慮することが望ましいと考えられます。
医薬品包装の用途
医薬品は様々な剤形がありますので、それぞれの剤形に合わせた包装が必要となります。主に以下の4つの剤形について説明いたします。
- 散剤・顆粒剤の包装
- 液体医薬品の包装
- 錠剤やカプセルの包装
- クリーム・軟膏の包装
ここでは上記4つの用途についてそれぞれ解説します。
散剤・顆粒剤の包装
散剤・顆粒剤は、医薬品の基本形態といってもよいもので、風邪薬などでもよく見かける剤形です。
散剤や顆粒剤は、水や注射液などに溶かして投与するため、水に溶けるものがほとんどです。そのため、吸湿しやすく、保管時の湿気による影響は考慮しておく必要あります。また、造粒時の硬度によっては、包装フィルムに穴をあけたり、キズを付けたりすることがあるので注意が必要です。
散剤・顆粒剤の包装は、三方シール袋や四方シール袋の形態が多く採用されています。
包装材料も製剤の特性に合わせ、いろいろなプラスチック素材やアルミニウム箔を組み合わせたものを使用します。
液体医薬品の包装
液体医薬品には、経口薬(シロップなど)、点眼薬、注射薬などが含まれ、これらの包装には、バイアル瓶やアンプルなどのガラス容器、そのほか、プラスチック容器が使用されます。
シロップは1瓶を1回分で飲むものや複数回分の液剤が入った容器など包装形態はさまざまで、複数回分入っているタイプの場合は、スポイトなどを使い自分で計量して飲む場合もあります。
点眼薬は適量を滴下するためのドロッパーが付属しており、すべて無菌状態で充填される点が特徴です。
また液体医薬品の包装として使われるプラスチック製医薬品容器は、設計通りに気密容器で、微生物の混入を防止して生産されていることを確認する必要があります。菌や微生物が混入すると、人体に悪影響を及ぼす恐れがあるためです。
錠剤やカプセルの包装
医薬品包装の中でももっとも目にする機会が多いのが、錠剤やカプセルの包装です。
錠剤やカプセルの包装にはブリスター包装やストリップ包装、三方や四方シールの小袋包装、錠数によってはボトル包装など幅広い種類があります。大量の錠剤を一度に保存できる包装や取り出しやすさを重視した包装など、重視する要素に合わせて選択されるのが一般的です。
医薬品の湿気を防ぐため、乾燥材が同封されていることもあります。
クリーム・軟膏の包装
クリームや軟膏の包装には、チューブやジャーが使用されます。
チューブは一方の端にノズルとキャップが付いてもう片方が閉じられている包装で、内容物の軟膏を押し出すことができる柔軟性を持っていることが特徴です。ノズルが小さいため雑菌が繁殖しづらく、長期間の保存にも適しています。
金属チューブやプラスチックチューブ、ラミネートチューブなどさまざまな種類がある点もポイントです。
ジャーは外用剤や軟膏剤、クリーム、ジェルなど医薬品だけでなく、化粧品の包装にも使われている容器です。
チューブの小さいキャップを開け閉めするのが苦手な場合でも、ジャーであれば蓋が大きいため開け閉めしやすいという特徴があります。
ただしジャーはチューブと異なり空気にさらされやすいため、雑菌が繁殖するリスクや分離してしまうリスクなどがあり長期保存には不向きです。薬との相性や患者の傾向に合わせた包装の選択が必要となるでしょう。
医薬品包装の形態
医薬品の包装形態で、プラスチックなどのフィルムを使用する主なものは、以下のような種類があります。
- 三方シール・四方シール袋包装
- ブリスター包装
- ストリップ包装
- ピロー包装
ここでは上記4つの種類についてそれぞれ解説します。
三方シール・四方シール袋包装
三方シール・四方シール袋は、ラミネートフィルムを折り曲げたり、重ねたりして袋形状にし、それぞれの袋の3辺もしくは4辺全てをシールし、中身を封入した形態です。
包装材料も、用途に合わせて、各種プラスチック、アルミニウム箔、セロハン、紙などの材を組み合わせて使用されます。様々な剤形で使用されている包装形態です。
ブリスター包装
ブリスター包装は、プラスチックやその他の素材で内容物を収納するポケット部を成形し、内容物をセットした後に、アルミ箔やその他素材で蓋をしたものです。
PTPもブリスター包装のひとつで錠剤やカプセル剤の取り出しやすさに優れた包装であり、その他、プレフィルドシリンジやバイアル瓶などの包装にも使用されています。
ストリップ包装
ストリップ包装は薬剤を2枚のフィルムで挟み、周りをヒートシールなどで密閉したものです。
ストリップ包装に使用される包装材料は、ポリエステルやセロファン、アルミ箔、ポリエチレンなどのフィルムを組み合わせラミネートしたものです。
ストリップ包装はSPと呼ばれることもあり、主に錠剤やカプセル剤などで用いられます。密閉されるため空気の侵入がなく薬剤を保管できることが特徴です。
ピロー包装
ピロー包装は、枕のような見た目をした包装形態で、ある程度大きな固形物の包装に適しています。
医薬品分野では、集積されたPTPの二次包装として、使われることが多いです。一次包装だけで品質の確保が難しい場合は、防湿性や遮光性などを持つ材料で、二次包装を行えば補完することができます。
医薬品包装における技術革新
医薬品包装における技術革新は年々進んでおり、過去から見ていくと以下の6つを挙げることができます。
- ガスバリア包装
- 防湿包装
- タンバーレジスタント包装
- チャイルドレジスタンス包装
- エコフレンドリーな包装
- スマートパッケージング
ここでは上記6つの技術革新についてそれぞれ解説します。
ガスバリア包装
ガスバリア包装は気体の透過を抑制する機能を持ったものです。
酸素や特定ガスなど気体の透過によって品質が悪化する恐れのある薬品に多く用いられる包装で、脱酸素剤や各種吸収剤などと併用する場合もあります。
ガスバリア性能の高いものとしては、アルミ箔、ポリアミド(ガスバリア向上タイプ)、透明蒸着PET(ポリエチレンテレフタレート)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)などが挙げられます。
防湿包装
防湿包装は医薬品を湿気から守るために防湿機能を持つ材料を用いたもので、必要に応じて乾燥剤を入れ、内部を乾燥状態に保ちます。
たとえば口腔内崩壊錠(OD錠)は吸湿性が高いため、薬剤の品質低下を防ぐために防湿包装が用いられるケースがあります。
タンパーレジスタント包装
タンパーレジスタント包装は、人が無意識または悪意を持って扱った場合に、その事実が消費者に分かるようにした包装です。
たとえば商品を1個または複数個まとめてシュリンクフィルムで覆い、フィルムを加熱収縮させる『シュリンクフィルム包装』はタンパーレジスタント包装の一種です。
一度開封するとフィルムが破れて復元することが困難であるため、いたずらや改ざんの防止に役立ちます。
改ざん防止効果をより高めるため、自社のロゴを印刷したシュリンクフィルムを用いたり、フィルムラッパーにテープまたはシールを併用したりするケースもあります。
チャイルドレジスタンス包装
チャイルドレジスタント包装は、子供の誤飲事故防止を目的としたものです。
子供の誤飲事故の事例としては、以下のようなものがあります。
- 子供(1歳7か月)が足場(座椅子2台と子供用の椅子)を持ってきて,子供の目や手が届かない扉付きの棚(床から136cmの高さ)から手に取った医薬品を誤飲した事故
- 台所の調理台の奥に一時的に置かれていた甘い味のする水薬(みずぐすり)を子供(2歳10か月)が多量に誤飲した事故.当該医薬品は,いちご風味の水薬で,甘くて飲みやすいことが特徴であった
上記のような事故を防ぐため、ボトル型の包装では特別な安全キャップが用いられるケースがあります。
この特別な安全キャップは押し下げて回して開封する必要があるもので、子どもには開封が困難ですが成人は適切に使用できる仕組みとなっています。
エコフレンドリーな包装
医薬品包装でも環境に配慮した包装が増えてきています。具体的には
- 製品や包装の合理化による包装材料の使用量の削減
- 一部バイオマス素材の採用
リサイクルしやすいよう単一素材化の検討も進んでおり、環境負荷低減を考慮した包装は今後さらに増えてくるでしょう。
スマートパッケージング
スマートパッケージングとは、新技術や新素材を採用して機能性を高めた包装のことです。
たとえば包装にQRコードやNFCタグを使用することで、薬品情報を簡単に確認できるシステムが挙げられます。
このシステムによって患者が処方箋通りに薬を服用しやすくなり、服用時のミスを減らすことができます。
まとめ
医薬品包装の主な役割として、保護機能、情報提供機能、改ざん防止、誤認・誤使用防止の4つが挙げられます。
これらを満たした包装は医薬品の安全・安心を確保し、使用性の向上が期待できるでしょう。
株式会社カナエでは、医薬品向けの包装材料・パッケージを数多く取り扱っており、単一素材で構成されたモノマテリアルPTPなど、ニーズに応じた包装のご提案が可能です。
医薬品包装についてのお悩みや気になることがありましたらぜひ気軽にお問い合わせください。